5G アーキテクチャ
これまでの世代のモバイルネットワークの第一の目標は、単純にモバイルデータサービスをネットワークユーザーに高速かつ確実に届けることでした。5G によってこの目標範囲はさらに広がり、複数のアクセスプラットフォームおよび多層ネットワークにまたがって広範な一連のワイヤレスサービスをエンドユーザーに提供するまでになりました。
事実上 5G は、各種アプリケーションを支えている複数の先進技術からなる動的で柔軟、コヒーレントなフレームワークです。もはや基地局との近接性や複雑なインフラの制約を受けることのない無線アクセスネットワーク(RAN)と共に、よりインテリジェントなアーキテクチャが採用されています。5G は新しいインターフェイスを持つ離散型で柔軟な仮想 RAN の道を切り開き、追加のデータアクセスポイントを生み出します。

5G アーキテクチャの 3GPP
第 3 世代パートナーシッププロジェクト(3GPP)は、RAN、コア伝送ネットワーク、サービス機能などの通信技術を対象としています。3GPP は、以前の世代よりもはるかにサービス指向の 5G ネットワークアーキテクチャの完全なシステム仕様を提供してきました。

サービスは共通の 1 つのフレームワークを通じてネットワーク機能に提供され、それらネットワーク機能がそれらサービスを利用する許可を受けます。3GPP の仕様が規定する 5G ネットワークアーキテクチャに関する設計上の追加の検討事項として、ネットワーク機能のモジュール性、再利用性、自己充足性があります。
5G の周波数帯域(スペクトラム)と周波数
現在、複数の周波数範囲が 5G NR(New Radio)専用に割り当てられつつあります。周波数が 30GHz~300GHz の無線帯域の部分は、波長が 1~10mm の範囲であることから、ミリメートル波(ミリ波)と呼ばれています。24GHz~100GHz の周波数は、世界の複数の地域で 5G に割り当てられつつあります。
ミリ波に加えて、十分に利用されていない 300MHz~3GHz の UHF 周波数も 5G 向けに再利用されようとしています。使用される周波数は多様であり、短い範囲ではあるが、周波数が高くなるほど帯域幅が広くなるという特性を考慮しながら、ユニークなアプリケーションに合わせて使用する周波数の多様性をカスタマイズすることができます。ミリ波の周波数は人口密集地域には理想的ですが、長距離通信には役立ちません。通信事業者はそれぞれ、これらの 5G 専用の高および低周波数帯域内で自社専用となる 5G スペクトラムの部分を個々に獲得し始めています。
MEC
MEC(Multi-Access Edge Computing)は 5G アーキテクチャの重要な 1 つの要素です。MEC はクラウドコンピューティングにおける進化であり、集中型のデータセンターにあるアプリケーションをネットワークのエッジに移すことで、よりエンドユーザーおよびデバイスの近くにアプリケーションを近づけます。基本的にこれは、コンテンツ配信におけるユーザーとホスト間の距離、すなわち、両者を隔てていた長いネットワーク経路を短くすることになります。
この技術は 5G 特有というわけではありませんが、その効率性に不可欠であることは確かです。MEC の特徴としては低遅延、広帯域幅、RAN 情報へのリアルタイムアクセスなどがあり、これは 5G アーキテクチャと以前のアーキテクチャとを明確に区別する特徴になっています。RAN とコアネットワークのこのコンバージェンスでは、事業者はネットワークテストおよび検証で新しい手法を取り入れる必要が出てきます。
3GPP の 5G 仕様に基づく 5G ネットワークは、MEC 導入に理想的な環境です。5G の仕様では、エッジコンピューティングを実現するための要素が定義されており、MEC と 5G はトラフィックのルーティングで協力することができます。MEC アーキテクチャには、遅延および帯域幅の利点に加えてコンピューティングパワーの分散という利点があり、5G 展開およびモノのインターネット(IoT)に必然的に伴う大量のコネクテッドデバイスにより効果的に対応できるようになります。
NFV と 5G
ネットワーク機能の仮想化(NFV)では、ファイアウォールやロードバランサー、ルーターなどのさまざまなネットワーク機能がソフトウェアとして動作する仮想化インスタンスに置き換えられることによって、ソフトウェアとハードウェアがデカップリングされます。これにより多くの高価なハードウェア要素に投資する必要がなくなるほか、導入時間を迅速化することもでき、収益源となるサービスを顧客にすばやく提供できるようになります。
NFV は、5G ネットワーク内のアプライアンスを仮想化することによって 5G インフラの実現を可能にします。これには、複数の仮想ネットワークが同時に稼働することを可能にするネットワークスライシング技術などがあります。NFV は、コンピューティングやストレージ、ネットワークリソースをアプリケーションや顧客層に基づいてカスタマイズし、仮想化することでその他の 5G の課題に対処できます。
5G RAN アーキテクチャ
NFV の概念は、 例えば O-RAN などのアライアンスが推進しているネットワーク離散化を通じて RAN にまで拡張されています。これにより柔軟性を生むことが可能になり、新しい競争の機会が生まれます。オープンなインターフェイス、オープンなソース開発が可能になり、最終的には規模に応じた新機能および新技術の展開が容易になります。O-RAN アライアンスの目的は、既製のハードウェアを使ったマルチベンダー展開を可能にすることによって相互運用性の実現を容易かつ迅速に行えるようにすることです。ネットワーク離散化によってネットワークの構成要素を仮想化することが可能になり、容量増大に応じてユーザー環境をスケーリングし、改善する手段になります。 RAN 構成要素の仮想化の利点は、ハードウェアおよびソフトウェアの面で費用効果を改善する手段が提供されることです。デバイス数が百万単位になる IoT アプリケーションの場合は、特にこのことが当てはまります。
eCPRI
機能分割によりネットワーク離散化には、コスト面のメリットもあります。特に eCPRI などの新しいインターフェイスの導入がこれに当たります。大量の 5G キャリアのテストでは RF コストが急速に上昇するため、RF インターフェイスの費用効果はよくありません。一方 eCPRI インターフェイスでは、導入することで少ない数のインターフェイスを使って複数の 5G キャリアをテストできるようになりますから、費用効果の高いソリューションになります。eCPRI の目的は、例えば DU などの O-RAN フロントインターフェイスで使用する 5G 向けインターフェイスを標準化することにあります。eCPRI に対し CPRI は 4G 向けに策定されました。しかしながら、これはしばしばベンダーによって異なり、事業者にとっては問題の多い規格になっています。
ネットワークスライシング
恐らく、5G アーキテクチャの可能性をフルに開花させることを可能にする最大の要素はネットワークスライシングでしょう。この技術は、共有物理ネットワークインフラ上で複数の論理ネットワークが同時に稼働することを可能にすることによって NFV のドメインに別次元の機能を追加します。これは、ネットワークおよびストレージ機能の両方からなる仮想ネットワークをエンドツーエンドに創出することによって 5G アーキテクチャに不可欠になります。
事業者は、ネットワークリソースを複数のユーザーまたは「テナント」に分配することによってスループットや遅延、可用性の異なる多様な 5G ユースケースを効果的に管理できます。
ネットワークスライシングは、ユーザー数は極めて多くはなるが、全体の帯域幅需要は小さい IoT などのアプリケーションに極めて有効になります。5G の垂直市場はそれぞれに固有の要件が存在することになるため、ネットワークスライシングは 5G ネットワークアーキテクチャ設計で重要な検討事項になっています。現在はこの水準のカスタマイズが可能になっており、ネットワーク構成のコスト、リソース管理および柔軟性のすべてを最適化できます。またネットワークスライシングは、見込みがある新しい 5G サービスの試みを迅速に行って市場投入までの時間を短縮することを可能にします。
ビームフォーミング
5G の成功に不可欠なブレークスルー技術はビームフォーミングです。従来の基地局は、対象ユーザーまたはデバイスの位置に関係なく複数の方向に信号を発信していました。数十基の小さなアンテナを 1 つのフォーメーションでずらりと並べたマルチ入力、マルチ出力(MIMO)方式で信号処理アルゴリズムを利用することで、各ユーザーに最も効率的な伝送経路を決定しながら、パケットをそれぞれ複数の方向に送信し、事前に決められた順序で目的のエンドユーザーに割り振ることができます。

ミリ波を占有する 5G データ伝送では、不使用スペース伝搬損失(アンテナの小型化に比例)や回折損失(周波数が高くなったり、壁面進入できなったりすることで必然的に発生)が非常に大きくなります。他方では、アンテナを小型化するほど、同じ物理スペースで占有できるアンテナ数を多くなるというメリットもあります。こうした小型アンテナはどれもが 1 ミリ秒あたり数回ビーム方向を変更できるため、5G 帯域幅の課題に対応した大規模ビームフォーミングが現実味を増しています。同じ物理スペースでアンテナ密度が増すと、大規模 MIMO でビームの狭小化が可能になり、これはユーザートラッキングの改善すると共に高スループットを達成する手段になります。
5G のコアアーキテクチャ
5G のコアネットワークアーキテクチャは新しい 5G 仕様の心臓部であり、5G が対応しなければならないスループット要求の増大に応えることができます。3GPP で定義されているように、新しい 5G コアでは認証やセキュリティ、セッション管理、エンドデバイスからのトラフィックの集約などの 5G 機能と対話操作のすべてに及ぶ、クラウドの位置に応じたサービスベースのアーキテクチャ(SBA)が採用されています。5G コアではまた、5G アーキテクチャ方式の中核をなす MEC インフラを使用して導入可能な仮想化ソフトウェア機能と共に不可欠の設計コンセプトとして NFV に力点が置かれています。

4G アーキテクチャとの相違点
ミリ波への移行や大規模 MIMO、ネットワークスライシング、その他、基本的には多様な 5G エコシステムの各種個別要素をはじめとして、4G から 5G への転換に伴う無数のアーキテクチャ上の変更の中には、コアレベルの変更もあります。4G の EPC(Evolved Packet Core)は 5G のコアと大幅に異なり、5G コアではかってないほどのレベルで仮想化とクラウドネイティブのソフトウェア設計が利用されています。
5G コアとその前の 4G を区別するその他の変更点としては、パケットのゲートウェイコントロールとユーザープレーン機能をデカップリングするユーザープレーン機能(UPF)や、セッション管理機能と接続およびモビリティ管理タスクとを分離するアクセスおよびモビリティ管理機能(AMF)もあります。
5G アーキテクチャの選択肢
4G と 5G のギャップを橋渡しするには、段階的な手順とゲーム計画の綿密な調整が必要になります。この転換で象徴的なことは、非スタンドアロンモードからスタンドアロンモードの 5G アーキテクチャへの段階的な移行があるということです。5G の非スタンドアロン規格は、2017 年後半に完成し、5G コンポーネントキャリアが追加されると共に、アンカーとして既存の LTE RAN とコアネットワークを利用します。既存のアーキテクチャに依存するにもかかわらず、このモードでは、ミリ波周波数を利用することで帯域幅が増大することになります。
5G のスタンドアロンモードは、基本的には新しいコアアーキテクチャを採り入れた 1 からの 5G 導入であり、5G ハードウェアと機能のすべてをフルに展開することなります。非スタンドアロンモードでは、新しい 5G モバイルネットワークアーキテクチャに徐々に移行していくことになるため、綿密に計画・実装することによってユーザーにとって移行がシームレスになるようにします。

5G アーキテクチャ導入の地理的側面
スタンドアロンの 5G 導入に必要なインフラには、さまざまな地理的地域の 5G 統合において世界規模の段階的展開が必要となります。北米やアジア、ヨーロッパなどの技術先進地域ではすでに限定的な導入が始まっていますが、その他の地域の国々は少し遅れています。2019 年末までに全体で 55 のネットワークが本格運用されると予想されています。ヨーロッパでは国々が近接しており、また通信事業者が急増していることから本格展開が特に難しくなっています。この問題に対処するため、欧州委員会は 5G for Europoe アクションプランを策定しました。進捗に弾みをつけ、2020 年末までのすべての EU 加盟国の導入ロードマップとなるものです。

中国や日本、インドなどの工業先進国では、5G 転換に向けて実際的にも財政的にも意味合いを持つ重点的な投資が行われています。新しいアンテナ、インフラのハードウェアおよびソフトウェア技術は、世界中の電子業界やソフトウェア設計業界、製造業界にとって宝の山であり、迅速な導入が強調されるのはそのためです。インドの大手通信事業者の 1 つはすでに 5G 対応に向けてネットワーク全体のアップグレードを終え、China Mobile は 2020 年までに 10,000 の 5G 基地局を建設すると予想されています。
5G アーキテクチャにおけるセキュリティ

5G を実装すると、クラウドベースのリソース、仮想化、ネットワークスライシング、その他新技術を広範に利用できることで、パフォーマンス上の多大の利点があるばかりでなく、多様なアプリケーションを利用できるという利点もあります。これらの変更に伴い、5Gセキュリティアーキテクチャ内で新たなセキュリティリスクと「攻撃面」が露呈しています。
5G のセキュリティは従来のモバイル技術の世代のプラクティスを基にしています。信頼モデルの構築には非常に費用がかかる一方、より多くの人材がサービス配信プロセスの方に従事しています。IoT およびユーザー増大によって幾何級数的にエンドポイント数が増え、それらのトラフィックの多くはもはや人手では監視されていません。
3GPP 規格で規定されている 5G のセキュリティ改善機能には、統一認証(認証とアクセスポイントをデカップリング)や拡張可能認証プロトコル (安全なトランザクションに対応)、柔軟なセキュリティポリシー(より多くのユースケースに対応)、加入者永久 ID(SUPI、ネットワーク上のプライバシー確保)などがあります。
5G 導入が進み、クリティカルなパフォーマンスノードがますます仮想化される中、事業者はセキュリティパフォーマンスを継続的に監視し、評価する必要があります。ベストプラクティスを堅持するということは、システムのアーキテクチャ、デバイスそしてアプリ全体でエンドツーエンドにネットワークセキュリティを監視するということです。
新世代のモバイルネットワークが登場するたびに慣れ親しんできたユーザーに 5G が幾何級数的なスピードの向上をもたらすことに疑いの余地はありませんが、スピードは単なる始まりにすぎません。個人輸送から製造、農業までさまざな業種で予想される変化は、多くの人によって 5G が次の産業革命 と呼ぶほどに巨大です。このパラダイムシフトの核心は、新しいサービスの波に呼応して動く MEC や NFV、大規模 MIMO からなる多面的な 5G アーキテクチャであり、クラウドの位置に応じたサービスベースのコアアーキテクチャは新しいサービスの波に呼応します。アーキテクチャのこの根本的な変化に対応すべく 5G 向けテストソリューションは、間近に迫った 5G 移行を真の意味で実現するソリューションになります。