普及期に入った100ギガビットイーサネット

昨今のYouTubeをはじめとする動画系OTTの台頭で、インターネットのトラフィック需要がますます高まってきています。そんな中、我々のような中規模ISPにおいてもネットワークの100ギガビットイーサネット化を検討する時期となりました。そこで、いまさらではありますが100ギガビットイーサネットについて最新状況(2017年2月現在)をご説明すると共に、これから100ギガビットイーサネットの導入を予定されているご担当者向けに、導入にあたり最低限把握しておく必要がある情報に絞って技術仕様や注意点をまとめていきます。

また、Broadcom社製汎用チップを採用した非常に安価な100ギガ対応スイッチやルータのリリースに引き続き、レイヤの高いDPI製品等にも100ギガに対応する製品がラインナップに加わってきています。それらの製品を導入していくにあたり、負荷試験における大容量トラフィックジェネレータの活用や、それをお持ちでない場合の負荷試験方法について説明していきたいと思います。

100ギガビットイーサネット規格・トランシーバについて

まずは100ギガビットイーサネット規格の最新状況をご説明していきたいと思います。シングルモードファイバを使用する中距離規格は100ギガがリリースされた初期の頃から100GBASE-LR4で変わらずですが、マルチモードファイバを利用する短距離規格は100GBASE-SR10から100GBASE-SR4に変わってきていることが特徴的です。また、トランシーバについても世代が進むにつれて小型化が進んできました。(表2-1,2-2参照)

表2-1:100ギガビットイーサネット規格(よく使用されるもの)

 100GBASE-LR4100GBASE-SR10100GBASE-SR4
帯域100Gbps
使用波長1310nm850nm850nm
用途中距離用短距離用短距離用

(筆者調べ)

表2-2:100ギガビットイーサネット用トランシーバ

トランシーバCFPCFP2CFP4QSFP28
世代3世代前2世代前1世代前最新世代
モジュールサイズ極小
伝送規格100GBASE-LR4100GBASE-SR10100GBASE-LR4100GBASE-SR10100GBASE-LR4100GBASE-SR4100GBASE-LR4100GBASE-SR4
光波長1310nm850nm1310nm850nm1310nm850nm1310nm850nm
コネクタ形状LCMPO12/24LCMPO12/24LCMPO12/24LCMPO12/24
ファイバ種別シングルモード
(2芯)
マルチモード
(24芯)
シングルモード
(2芯)
マルチモード
(24芯)
シングルモード
(2芯)
マルチモード
(12芯)
シングルモード
(2芯)
マルチモード
(12芯)
ファイバ規格OS1/2OM3/4OS1/2OM3/4OS1/2OM3/4OS1/2OM3/4

(筆者調べ)

図2-1:トランシーバ規格の変遷

図2-1:トランシーバ規格の変遷

出典:NOKIA 2017「Router Optics Evolution and Market Trends」

図2-2:CFPとQSFP28の大きさ比較

図2-2:CFPとQSFP28の大きさ比較

(筆者調べ)

今から考えるとかなりサイズが大きかったCFPからQSFP28までトランシーバの小型化が進んできました。(図2-1,2-2参照) コネクタの大きさもありますので、これ以上小さくなることはなさそうに思われます。今後、さらなる大容量化に向けて2017年中に400ギガビットイーサネット規格が標準化され、それに伴い400ギガ用のトランシーバがリリースされていくようです。

マルチモードファイバを使用するフロア内等で利用する短距離伝送規格においては、100GBASE-SR10と100GBASE-SR4と2種類の規格がありますが、最新の装置・トランシーバでは100GBASE-SR10でなく100GBASE-SR4をサポートするようになっており、今後はこちらが主力になっていくのではないかと考えています。また、100GBASE-SR4のトランシーバはかなり安価になっており、ネットワーク機器ベンダーによっては、サードパーティ製のQSFP28(100GBAE-SR4)を他社とは比較できない程の安い価格で提供していたりします。(戦略的な価格設定なのでしょうね・・・)

100ギガビットイーサネットで使用するケーブル・コネクタについて

現在の100ギガビットイーサネットにおける主力伝送規格の中で、従来の10ギガビットイーサネットまでのとの大きな違いは、コネクタ形状とケーブルとなります。(40ギガビットイーサネットでは既にお馴染みかとは思いますが・・・)

100GBASE-LR4については表3-1の通り、上り/下りそれぞれで25.78G×4波長を使いますが、4波長を1芯に波長多重し、上り/下りで2芯を使用する為、従来の2芯のケーブルが使用可能となっています。また、ファイバの規格についても従来のOS1/2という規格が引き続き使用可能です。

半面、100GBASE-SR4についてはコネクタ形状・光ファイバケーブルが従来の10ギガビットイーサネットと異なり、図3-1に記載のあるMPO12と呼ばれるコネクタが付いた多芯マルチモードファイバーケーブルが使用されます。100GBASE-LR4と異なり、25.78Gで1芯を使用する為、表3-1の通り上り/下りそれぞれで25.78G×4芯、合計8芯を使用します。ファイバの規格上も10ギガビットイーサネットまでで使用されていたOM1/2は使用することができなくなり、OM3/4と呼ばれる性能を向上させた光ファイバが使用されます。

100GBASE-SR4より古い短距離規格である100GBASE-SR10では、10.315Gで1芯を利用し、上り下りそれぞれで10.315G×10芯、合計20芯を使用します。光ケーブル・コネクタについては、MPO12コネクタ付き12芯ケーブルを上り/下りで2本使用する方式と、MPO24と呼ばれるコネクタがついた24芯ケーブルを上り/下りで1本を使用して転送する方式があります。(図3-1参照)

表3-1 100ギガビットイーサネット用の光ケーブル・コネクタ

 100GBASE-LR4100GBASE-SR10100GBASE-SR4
使用波長1310nm850nm850nm
LinkSpeed1波長 25.78G
×
4波長 ※1芯に波長多重
(上り/下りで8波長2芯利用)
1芯 10.315G
×
10芯
(上り/下りで20芯利用)
1芯 25.78G
×
4芯
(上り/下りで8芯利用)
光ケーブル種別シングルモード
OS1/2
マルチモード
OM3/4
マルチモード
OM3/4
伝送距離10km100m50m~100m(FEC)
コネクタ形状SC/LCMPO12/24MPO12

(筆者調べ)

図3-1:多芯マルチモードファイバコネクタの種類

図3-1:多芯マルチモードファイバコネクタの種類

(筆者調べ)

このMPO12/24ですが、機器に接続する際は特に気を付ける部分は無い反面、ケーブルを延長する際に注意が必要です。コネクタ同士を接続する為にはSC/LCコネクタと同様のメス-メスコネクタを使用しますが、コネクタに極性があるため専用のピンを使用した極性の切り替えや、上下を合わせる為にコネクタ部品の付け替えが必要になります。

ネットワーク機器の負荷試験用トラフィックジェネレータ

ネットワークの100ギガ化を進める上で欠かせないのがトラフィックジェネレータです。トラフィックジェネレータのメーカーには数社あり、海外製品の大手だとIXIAコミュニケーションズ(以降IXIA社と記載)・Spirent、国産だとアンリツ等があります。

IXIA社製100ギガトラフィックジェネレータ

写真4-1:IXIA社製100ギガトラフィックジェネレータ

QSFP28(100GBASE-SR4)を4ポートもつ100ギガモジュールを、弊社内のトラフィックジェネレータ本体に搭載した状態の写真です。この構成でレイヤ4のトラフィックジェネレートまでサポートします。(モジュール型番:Xcellon-Multis XM100GE4QSFP28)

100ギガ対応トラフィックジェネレータにも様々な種類があり、ルータ製品等にはレイヤ4まで疑似するトラフィックジェネレータを使用し、DPI・IDS・IPS等にはレイヤ7まで疑似するトラフィックジェネレータを使用します。最近では、レイヤ4までのトラフィックを出力する製品だと比較的安価になってきましたが、レイヤ7まで疑似するトラフィックジェネレータはいまだにとても高価です。

品質の高いネットワークを構築する為には、トラフィックジェネレータによる導入前試験は絶対に必要です。弊社では製品をネットワークに導入する前に厳密なトラフィック負荷試験を実施することで、品質の高いネットワーク構築に取り組んでいます。

大容量トラフィックジェネレータがない場合の負荷試験方法

さて、理想としてはラボにおいて実際のネットワークに流れるトラフィック量以上の負荷をかけて試験を実施し、その上で導入していくのが望ましいと思われますが、予算の都合でそれができない場合もあるかと思います。その場合の一つの方法として、光TAPを利用した商用トラフィックによる負荷試験があります。弊社ではトラフィックジェネレータを用いた試験と併用していますが、商用トラフィックが通るリンクに光TAPを挟み込んで、光を分岐させて試験対象装置に流し込んで負荷試験をしています。(もちろん機器に流入させたトラフィックデータについては細心の注意を払って扱っています)

図5-1:商用トラフィックによる負荷試験構成

図5-1:商用トラフィックによる負荷試験構成

この方法の良い点は、導入する対象ネットワークのトラフィックを試験対象機器に処理させますので、これ以上リアルな環境はないという点です。装置におけるトラフィック処理状況や、不具合が出ない等は担保できますが、装置でパケットをDropさせていた場合にわかりづらい(機器のカウンタを信用するしかない)というデメリットがあります。

基本的にトラフィックジェネレータで想定している処理能力がきちんと発揮できているかということ、及びDropが発生しないことを確認した上で、商用ネットワークのミラーリングトラフィックを印加・処理させて、安定性の最終確認をするという試験手順を踏んでいきます。