無線ネットワークの世界は今、この話題で持ちきりだ。次世代無線LAN規格「IEEE 802.11ax」(無線LANの業界団体Wi-Fi Allianceによる製品認証プログラムの名称で「Wi-Fi 6」)と、移動体通信システムの新規格「第5世代移動体通信システム」(5G)である。5GとIEEE 802.11ax、どちらが市場で優位に立つかという議論に注目が集まっている。
実際には、どちらもさまざまな利用シーンで広く使用されることになるだろう。注目したいのは無線LANの市場シェアを5Gが奪う可能性のある、興味深い分野が登場したことだ。5Gをプライベートネットワークとして使う「ローカル5G」である。
スマートフォンや自動車が5G接続するための基地局を、通信事業者が増やすのは当然の流れだろう。このように5Gの主要なユースケースとして以前から注目されてきたものだけではなく、製造業や鉱業などの現場でも5Gの利用が検討されている。ロボットや産業機械、センサー、オートメーション装置用のネットワーク接続の仕様変更が検討されている。企業の敷地内など、特定の拠点や建物で使うプライベートネットワークとして、無線LANの代わりに5Gの採用を検討する動きがあるという。
「ローカル5G」が「無線LAN」よりも優れている点
無線LANではなく5Gがプライベートネットワークとして広がる可能性のある理由は何だろうか。無線LANの場合、ネットワーク接続が不安定になりがちな上、電波の到達距離が比較的短い。そのため移動性の高いデバイスの場合、ネットワーク接続が途切れがちになる欠点がある。無線LANの周波数帯として利用されている2.4GHzと5GHzの切り替えが安定しない点も懸念される。
無線LANの標準化規格「IEEE 802.11」には性能のばらつきがある。特定の無線LAN規格に投資したとしても、実際の性能はネットワーク機器の設計に左右される。
欧州の自動車メーカーなど大手企業の一部は、ローカル5Gの導入に意欲を示している。プライベートネットワークの管理者は、5Gが持つ低レイテンシ(低遅延)、安定したローミング、各種クライアントのサポートといった特性に大きく注目している。
ローカル5Gの実現可能性は現段階では未知数だ。実現するには解決しなければならない問題が少なからずある。まず次のような点を明確にする必要がある。
- ローカル5Gを構築するためのネットワーク機器は、ライセンスバンド(無線局免許が必要な周波数帯)とアンライセンスバンド(無線局免許が不要な周波数帯)のどちらを採用するのか、または両方を採用するのか
- ライセンスバンドをプライベートネットワークに割り当てるのはどれだけ難しいのか
- ローカル5Gは社内で構築・運用できるのかどうか、それとも社外の特別な技術が必要なのかどうか
- ローカル5Gの性能に一貫性を持たせることはできるのかどうか
ローカル5Gの実現のためにはさまざまな課題を検討する必要があり、既にそのための議論や評価が進んでいる。今後、ローカル5Gは間違いなく勢いを増し、ますます注視する必要性が高まるだろう。