「ローカル5G」と「普通の5G」の違いは何か?

「5G」を自営のネットワークとして運用するのが「ローカル5G」だ。これによって何が実現できるのかを知るには、ローカル5Gが利用する周波数帯の特性や、提供する事業者による違いを理解する必要がある。

「ローカル5G」は、通信事業者(キャリア)に頼らずに「5G」(第5世代移動体通信システム)のネットワークを構築する手段だ。プライベートなネットワークとしてさまざまな用途で利用できる可能性がある。

 同じローカル5Gでも、どの周波数帯を利用するかによって違いが生じる。キャリアが提供する5Gサービスとローカル5Gとの間にも違いがある。後編はこれらの点を中心に、ローカル5Gを考察する。

2つの周波数帯による違い

 ローカル5Gは利用する周波数帯によって、ネットワークの特性に違いが生じる可能性がある。国内でローカル5Gへの割り当てを計画している周波数帯は、4.6GHz~4.8GHzと28.2GHz~29.1GHzだが、これらの帯域のうち現時点で利用の見通しが立っているのは28.2GHz~28.3GHzの100MHz幅だ。

 28.2GHz~28.3GHzは、「ミリ波」と呼ばれる周波数帯に属する。ミリ波はデータ伝送の大容量化が可能である一方、直進性が高く、遠くに電波が届きにくい特性がある。遮蔽(しゃへい)物が電波の進む途中に存在すると、光のようにそこで電波が遮られてしまい、その先へは届きにくい。一方でキャリアへの割り当てが決定している3.6 GHz~4.1GHzや、将来的にローカル5Gで使用される可能性がある4.6GHz~4.8GHzの周波数帯は、遮蔽物があったとしてもその先へ回り込んで広く電波が届く特性がある。

 ミリ波に備わる高い直進性という性質を考えると、ローカル5Gは工場のようにさまざまな装置を設置している環境のネットワークには適さないのではないか、という印象を受ける人もいるだろう。5Gの動向に詳しい情報通信総合研究所(ICR)の岸田重行氏によれば「その特性が企業にとっては利点になる可能性がある」という。「セキュリティの観点で利用エリア以外に電波を漏らしたくない」という企業の要望があるためだ。

 工場内など壁に仕切られたエリアであれば、ローカル5Gはミリ波の特性を利用することで、その敷地内だけに電波を閉じ込めておける可能性が高くなる。「敷地内でどのように電波を到達させるかはアンテナの配置次第。なるべく死角がないように設置する工夫は必要になるだろう」(岸田氏)

ローカル5Gとキャリアによる5Gの違い

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの全国キャリア4社による5Gサービスは、2020年に本格的に提供が始まるとみられる。そのような中で、キャリアが提供するサービスではなくローカル5Gを使う意味は何だろうか。

 キャリアが提供する5Gサービスの提供エリアは、提供開始から徐々に広がると考えられる。ただしキャリアは基本的に、設備投資分を回収できる見込みがある地域までしか提供エリアを拡大しない。極端な話、5Gを利用したくても、いつまでたっても提供エリアに入らない地域が生じる可能性がある。「ローカル5Gはキャリアの提供エリアの展開状況に依存せずに、“5Gならでは”の用途を自前で構築できる」(岸田氏)

 コストの考え方も、キャリアが提供する5Gサービスとローカル5Gでは異なる。キャリアの5Gサービスは、毎月のランニングコストとしてキャリアに利用料金を支払うことが一般的になると考えられる。これに対して、システムインテグレーター(SIer)に委託してローカル5Gのネットワークを構築し、ユーザー企業が自らネットワークを運用すれば、キャリアへの利用料金の支払いは発生しない――と考えるのが自然だが、実はそうとは限らない。

 前編でも触れた通り、ローカル5Gも調達方法によっては毎月のサービス利用料金が発生する可能性がある。どのようにコストを負担する必要があるかは、どのようなベンダーがローカル5Gの市場に参入し、どのようにサービスを提供するかに左右される。岸田氏は「ローカル5Gのサービスは“こういうものだ”と言い切るのは難しい」と語る。システムインテグレーション(SI)の形で、個別の要望に応じるケースが少なくないと考えられるためだ。

 岸田氏は「ローカル5Gの制度が整備された後、この市場には多様なベンダーが参入する可能性がある」と語る。既にNECや富士通といった、以前から通信機器事業を展開してきたベンダーが、ローカル5Gのサービスを提供する準備を進めていると公表している。パナソニックやインターネットイニシアティブ(IIJ)といったベンダーもローカル5Gの事業参入に名乗りを上げている。本来ならば移動体通信とビジネスで競合関係にあるNTT東日本やNTT西日本のような固定ブロードバンドを提供する事業者も、ローカル5G市場に参入する意向を示している。

免許制度の進展

 ローカル5Gの免許は、建物や土地を利用エリアとして交付されることになる。免許を取得するのは対象の建物の所有者、または所有者から委託された事業者などになる見込みだ。当面の間、キャリアがローカル5Gの免許を受けることはできない方向で、制度設計を統括する総務省での議論が進んでいるようだ。

 総務省によるローカル5Gの制度設計は、早ければ2019年内には完了する見込みとなっている。ただし制度設計が完了しただけでは、まだ実用化は難しいという。「免許交付の名簿をどのように管理するのか、登録の手続きをどうするのかなど、運用面での環境を整える必要がある」(岸田氏)ためだ。制度設計やこうした環境整備を経て、ローカル5Gが利用できるのは早ければ2020年中になるとみられる。