有線の規格であるイーサネットの世界では、データ伝送速度の考え方は非常に単純だ。100Mbpsや1Gbpsというデータ伝送速度を実現するためには、クライアント端末をその規格に準拠したスイッチのポートに接続すればよい。この場合、データ伝送速度を制限する可能性があるのは、インターネットサービスプロバイダー(ISP)が提供するインターネット接続サービスの仕様のみだ。
一方、無線にはさまざまな規格があり、複雑性は有線より高い。データ伝送速度に影響する可能性がある要因はさまざまなものがある。5G(第5世代移動体通信システム)のネットワークが実際のところ何を意味するのかは、きちんと理解されていない。5Gを理解するには、まずは4G(第4世代移動体通信システム)を理解することから始めるのがよい。4Gとは何かを理解するには、まずは先入観を捨てて、特定の基準にはこだわらないことが大事だ。
モバイルネットワークの理想と現実
まずは初歩的なところで、「G」の意味するものは何かという点から開始しよう。Gは「Generation」(世代)を意味する。これはモバイルネットワークのテクノロジーの世代を表す固有の表記だ。ただし、この世代の定義には厳密さがない。一般的には、世代が新しくなるたびに、前の世代よりもデータ伝送速度が何倍か速くなると見込まれている。前の世代のデータ伝送速度が仕様として明確に定義されていないとしても、一般的にはそのように認識されてしまう。既に述べたように、ネットワークのテクノロジーの定義は実に曖昧だ。
4Gが利用する電波の周波数帯は、700MHzから6GHzの間と幅広い(国や地域によって、実際に利用可能な周波数帯は異なる)。3G(第3世代移動体通信システム)の仕様では、最大データ伝送速度は数十Mbpsとなる。ITU-T(国際通信連合の電気通信標準化部門)による4Gの定義では、デバイス移動時の最大データ伝送速度は100Mbpsとなる。移動しないデバイスならば、最大1Gbpsのデータ伝送速度を実現することが目標となっている。
ただ実際には、43Mbps、10Mbps、7Mbpsといったデータ伝送速度になるのが現実だろう。4Gの電波は至る所で利用できる。だが4Gを利用するデバイスが同一エリアに100台近くあるなど、接続が混雑した状態だと、4Gのネットワークに接続しているとは感じられないほどデータ伝送速度が低速になる可能性がある。
もちろん、接続するデバイスの数だけ十分に電波が行き渡っている状態であれば、4Gは問題なく機能する。その場合、ほとんどのユーザーはどのくらいのデータ伝送速度が出ているかを気にかけることはないだろう。データ伝送速度についてユーザーが「素晴らしい」と言うときは大抵、「まあまあ素晴らしい」という問題のない状態だ。ITU-Tがどれだけの目標を掲げていても、現実にそれだけのデータ通信速度が出ないことは往々にしてある。
4Gと5Gは結局、何が違うのか
4Gと5Gのテクノロジーとしての違いはどこにあるのだろうか。5Gという“魔法”によって何がもたらされるのかを考えてみよう。まず4Gで利用されている周波数帯は引き続き4Gのネットワーク用として機能する。これに加えて、6GHzから約90GHzの間のさまざまな周波数帯で5G向けの電波が新たに割り当てられる可能性がある。
4Gの場合と同様、ITU-Tは5Gにおけるデータ伝送速度の目標を設定している。下り(基地局側からユーザー端末へのデータ伝送)の速度は20Gbpsと、4Gと比較して非常に高速になる。上り(ユーザー端末から基地局側へのデータ伝送)は10Gbpsになる。極めて低遅延で通信できることが、4Gまでの無線テクノロジーと比較した場合の大きな違いとなる。
セル(一つの基地局がカバーする区画)1つ当たりの同時接続デバイス数は、5Gでは4Gまでと比較して10~1000倍になる。どれだけのデバイスが接続できるかは、接続するデバイスの種類に左右される。こうした目標を考慮すると、5Gによる通信が可能なデバイスは、スマートフォンなどのモバイルデバイスに限らず、今後大量に登場してくると予想できる。機器同士を接続するM2M(Machine to Machine)によるネットワークなどを担うことへの期待も集まる。
こうした話を聞くと「5Gは非常に素晴らしい」と感じるのは当然だ。だ実際には、こうした大きな進展は何一つ実現しない可能性がある。とはいえ、4Gと5Gのテクノロジーの違いは明確で、5Gはより優れたテクノロジーであることは確かだ。5Gの性能は4Gよりも桁違いに優れている。大まかなものとはいえ、5Gの定義をそのまま受け入れておくべきだ。その上で、5Gという全体的に曖昧だが驚くべきテクノロジーをマーケティング部門が利用し、大活躍する日を期待しておくとよいだろう。
5Gは4Gまでのネットワークサービスと同様、従量制のサービスとして提供されるだろう。場合によってはIoT(モノのインターネット)デバイスが5Gのネットワークを利用しようとする際、従量課金制などのサービスの複雑さが障壁になる可能性がある。