ITインフラの新たな波への備えはできているだろうか。FCIA(The Fibre Channel Industry Association)がNVMe over Fibre Channel(NVMe over FC)の業界標準を公開した。NVMe over FCは「FC-NVMe」とも呼ばれる。このFC-NVMeは、データセンターの未来を占う重要なステップだ。
NVMeテクノロジーは登場してからしばらくたつ。SASやSATAなどの従来のインタフェースプロトコルとは異なり、NVMeはフラッシュストレージのようなメモリベースのストレージメディアが備えるパフォーマンスのメリット(低遅延)をアプリケーションでも享受できる。PCI Expressトランスポート層で運用するよう開発されたNVMeは、主にNVMeベースのサーバ内蔵型SSDや直接接続型のストレージ(DAS)に限定されている。
FC-NVMe標準が公開されたことで、NVMeベースの通信をファイバーチャネルSAN(FC SAN)で利用する方法が取り決められたことになる。この標準はNVMeのアクセス性を劇的に改善し、FC SANのパフォーマンスを向上させる。
FC-NVMeと既存のFC SANインフラ
標準が公開されることと、エンドツーエンドで機能するエンタープライズ製品を開発することは別の問題だ。
このためFCIAは「プラグフェスト」(Plugfest)という活動をしている。プラグフェストは、ホストバスアダプター、スイッチ、ストレージなど、FCテクノロジー関連のベンダーを集め、ベンダーがマルチベンダー環境で自社システムをテストし、動作に問題がないか確かめられるイベントだ。こうした活動だけでなく、ベンダーは製品レベルのテストを独自に実施している。
また、FCIAはFC-NVMeの新しい標準(FC-NVMe-2)への取り組みも始めている。この標準では、FCレベルにトランスポートエラーの回復機能を追加して接続の停止を防ぐという。FC-NVMe-2ではFC-NVMeシステムの強みがさらに高められ、システムでのデータパスエラー処理の改善ができるだろう。早いタイミングで導入を検討している企業は、標準の進化に合わせて最新機能を利用できるよう、コンポーネントのファームウェアを最新バージョンに更新しなければならない。運用環境に移行する前に、具体的なワークロード環境でコンポーネントを徹底的にテストすることも必要だ。
FC-NVMeのエンタープライズ製品
FC-NVMeのエンタープライズ製品の実現もそう遠い話ではない。FC-NVMe標準は、相互運用テスト中に発生する「接続の切断」を解決する方法(規則)をITベンダーに提供する。ベンダーはこの規則を適切に整備でき次第、製品を展開することになるだろう。
ただし、この標準の完成前にシステムを提供しようと計画しているベンダーもある。例えば、標準の公開前に、NetAppはBroadcomのBrocade部門とEmulex部門とともにNVMe-over-Fabrics(NVMe-oF)製品を発表した。Vexataも、FCを含め、複数の接続経路でNVMe-oFが使える製品を発表している。
FC-NVMeアレイなど、NVMe-oF対応のストレージアレイもある。Dell EMCはNVMe-oF対応ストレージとして、フラッシュストレージの「PowerMax」を発表した。IBMの「FlashSystem」はNVMe over InfiniBandが利用できるが、今後予測される追加の接続経路も対処するという。Pure StorageはエンドツーエンドでNVMeとNVMe-oFに対応するストレージとして新製品の「FlashArray//X」を市場に送り出している。Kaminarioはオールフラッシュアレイ「K2N」で、Tegile Systemsはオールフラッシュアレイ「IntelliFlash N-Series」で同様の対応を行っている。
公式サポートがまだ実現していない場合でも、それに向けた取り組みは進んでいる。例えば、Hitachi Vantaraは同社のハイパーコンバージド製品「Hitachi Unified Compute Platform」でNVMeを提供し、同社の他のストレージ製品でもNVMeを提供する体制を整えている。
個別のコンポーネントにも注意
個別のコンポーネントにも注意が必要だ。ストレージシステム、スイッチ、ホストバスアダプターが重要な構成要素だが、他にも考慮するコンポーネントがある。例えば、OSもFC-NVMeをサポートしなければならない。例えば「SUSE Linux」は対応済みだが、他のOSはまだ計画段階にある。
マルチパスソフトウェアもチェックする。幸い、NVMeストレージベンダーは「従来のFC SANで実行してもパフォーマンス上のメリットがある」としている。FC-NVMeが使える既存デバイスは増えている。早期導入企業は「新しく発生する障害を解決するためには更新が必要」ということを理解しておく必要がある。
新しいインフラの必要性
インフラを置き換える手間は誰も掛けたくない。そのため、FCIAは既存のSANに合うようにFC-NVMeを策定している。既にNVMeに対応しているFC SAN環境であれば新しいハードウェアやインフラに投資する必要はない。これは大きなメリットだ。
NVMeは、FCのSCSIコマンドの代わりになる。そのためFC-NVMeはSCSIと同じように動作する。また、NVMeであればファブリック内のFCネームサーバによってFC-NVMeのポートを特定できる。これにより、1台のネームサーバがファブリック上のポートやサポートされているプロトコルの種類を全て把握できるようになる。結果としてプロトコルが混在する環境の管理がシンプルになる。
理屈ではそうだが、実際のサポートは異なる可能性がある。ベンダーへの確認は必要だ。旧世代のストレージ製品やネットワーク製品がFC-NVMeをサポートするとしても、最新世代の製品の方がメリットを受けられる可能性は高い。例えばBroadcomは、同社の第6世代のファイバーチャネルスイッチには遅延を減らすソフトウェアの最適化や、ネットワークの状態とNVMeトラフィックのパフォーマンスを詳しく把握できる統合ネットワークセンサーを備えていると主張している。
今後のデータセンター
FC-NVMeがFC SAN環境のパフォーマンスを向上させる可能性は非常に高い。結果として、アプリケーションはパフォーマンスが向上し、SANの効率も高くなる。インフラの寿命が延びてTCO(総保有コスト)の改善につながる。
大きな疑問は、内蔵型NVMe SSDを使用した場合、ワークロードを処理するのに十分なパフォーマンス向上が見込めるかどうかだ。SANのアーキテクチャは、管理のしやすさ、データ保護、インフラ効率の向上など、サーバ内蔵ストレージやDASにこれまで数々のメリットをもたらしてきた。だが、高速分析、AI、機械学習など、極めて少ない遅延を求めるさまざまなワークロードが登場し、NVMe SSDを備えたDASがそのよりどころになった。FC-NVMeは、こうした「超低遅延を実現するワークロード」をFC SANで実現できるだろうか。
FC-NVMe SANによって加わる遅延はわずか10マイクロ秒程度と想定されているが、問題はそこだけではない。ボトルネックはデータパスのどこにあるかに左右される可能性が高い。ストレージがHDDからフラッシュに置き換わったことで、パフォーマンスのボトルネックはストレージメディアからネットワークに移った。FC-NVMeは、このボトルネックを解消すると考えられている。
次のボトルネックがアプリケーションになる場合、FC-NVMe SANは「超低遅延ワークロードを強化する」というチャンスが生まれる。ただし、ボトルネックがストレージコントローラーに移る場合、超低遅延ワークロードをDASに残し、両方のアーキテクチャをサポートし続けなければならない。このシナリオでは、ストレージシステムアーキテクチャ内でNVMeの効率を向上させることが、ストレージベンダーにとって非常に重要な差別化要因になる可能性がある。FC-NVMeがFC SANの遅延をどの程度抑えるか、今後数カ月様子を見ることになるだろう。