SSD市場の主流に躍り出るNVMe SSDストレージ、なお残る課題は?

専門家は「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)SSDストレージが主流のSSD製品になると予想している。

 SATA(Serial ATA)SSDでデータ転送に使われるハードウェアメカニズムであるAHCI(Advanced Host Controller Interface)とは異なり、NVMeプロトコルは、ソリッドステートメモリを管理するために一から設計された。フラッシュベースの技術に最適化したNVMe SSDはAHCI SSDに取って代わる見込みだ。

 NVMe SSDストレージはデータストレージ市場にとって、AHCI SSDより広範な機能強化や最適化が施された製品だと、ストレージベンダーのWestern Digitalで製品マーケティング担当シニアディレクターを務めるウォルター・ヒントン氏は語る。

 「NVMe SSDは、現在および将来のソフトウェアから得られるメリットを大幅に高めてくれる」(ヒントン氏)

SSDの可能性を実現

 「企業は、SSDのパフォーマンスに関して真の恩恵を受けたければ、PCIe(Peripheral Component Interconnect Express)インタフェースを活用できるNVMe SSDストレージの導入を進めなければならないことを認識している」と、ITサービスプロバイダーであるPhoenixNAP Global IT Servicesのイアン・マクラーティ社長兼CEOは語る。

 同氏の説明によれば、NVMe SSDはPCIバスに直接接続でき、CPUに可能な限り近づけることができる。

 これまで、SSDのパフォーマンスの足かせとなっていたのは、SATAインタフェースだ。SATAでは実効データ転送速度が約600MB/秒にとどまるからだ。

 「AHCIも、SSDの特性を生かせない要因となっている。AHCIでは、ヘッドが移動して、回転するプラッタ(ディスク)にデータを読み書きするHDDの限界が考慮されている。このため、コマンドに制限があり、レイテンシも長い」と、ソフトウェア定義型ストレージ(SDS)ベンダーのStorMagicで技術サービスディレクターを務めるルーク・プルーエン氏は指摘する。

 NVMeは、SATAやさらにはSAS(Serial Attached SCSI)接続よりも帯域幅がはるかに広いPCIeやM.2のような技術を利用してSSDを接続し、SSDの特性を生かせるように設計されたプロトコルだ。

 「NVMeではフラッシュストレージの強みを引き出せるので、リクエスト当たりのデータが多く、リクエストのデコード時間が短縮される他、スレッドのロックも不要になる」(プルーエン氏)

 さらにNVMeは、次世代ストレージメディアの登場に道を開いている。

 「SCM(ストレージクラスメモリ)はエンタープライズストレージ市場に出回り始めたばかりだが、いずれはSSDに完全に取って代わる可能性がある」と、Dell EMCの副社長兼フェローのダン・コッブ氏は語る。現在はほとんどの企業がSSDでNVMeを使用しており、これによって低レイテンシというメリットを享受しているが、こうしたNVMe SSDはコストが高い。「Intel OptaneのようなSCMは、NANDフラッシュよりはるかにレイテンシが低く、次世代ストレージとして大きな可能性を秘めている」(コッブ氏)

NVMeのさまざまなメリット

 低レイテンシは、NVMe SSDストレージの直接的なメリットだ。

 「レイテンシに敏感な大規模ビジネスアプリケーションを運用する大企業は、NVMe SSDストレージを使えば、高速にデータが処理され、高速に結果が得られる。これは競争優位につながる」と、インフラパフォーマンス管理ベンダーのVirtual Instrumentsで製品管理ディレクターを務めるヘンリー・ヒー氏は指摘する。

 「業界団体のNVM Expressが同じワークロードと同じホストシステムで実施した一連の比較テストでは、NVMe SSDストレージのI/Oレイテンシは、比較可能なSAS/SATAドライブの64~51%にとどまった」(ヒー氏)

 NVMe SSDストレージは、レイテンシが改善されているだけでなく、PCIeの転送速度とマルチレーンという利点を生かして、ストレージプロセスを高速化している。

 「他の条件が同じであれば、NVMe SSDをデプロイすることで、ストレージパフォーマンスのKPI(主要パフォーマンス指標)である帯域幅、IOPS、レイテンシを改善できる。また、NVMeはIOPS当たりのCPU要求が低い。これは、他のタスク処理のためにCPUリソースを解放できるということだ。NVMeで得られるストレージのI/Oパフォーマンス以外にもメリットがある」とヒー氏は説明する。

 NVMeデバイスは従来のSSDと非常に近い価格であり、PCIeやM.2バスで最大4GB/秒を実現する。「価格性能比の観点では圧勝しており、特に、ハイパーコンバージドソリューションにはうってつけだ。このソリューションは、できるだけ低コストで各サーバにパフォーマンスを詰め込むことを目指しているからだ」と、プルーエン氏はアドバイスする。

欠点と課題

 Western Digitalの商用およびエンタープライズブランドマーケティング担当シニアディレクター、ロブ・カミンズ氏は、コストの高さをNVMe SSDストレージの大きな欠点と考えている。

 「現在、NVMe SSDストレージを大規模にデプロイすると、法外なコストがかかる。だが、これはまさに、フラッシュの人気が出始めたころにも起こったことだ。NVMeのコストは既に下がり始めている。技術が成熟するにつれて、この流れは加速する一方だろう。つまり、この欠点は徐々に解消され、やがて完全に消えるということだ」(カミンズ氏)

 企業は主にNVMeをPCIeファブリックでデプロイしているが、これは通常、ホストシステムの内部に組み込まれている。

 「NVMeを大規模なスケールアウト共有環境で利用するには、例えば、NVMe over Fabricsが必要になる。これはSCSI over FC(ファイバーチャネル)SANと似た技術だ。だが、現在のところ、NVMe over Fabricsを導入するのは難しい。さまざまなベンダーがさまざまな“over Fabrics”技術を推進しており、各技術を手掛けるサプライヤー数は限られているからだ」(ヒー氏)

 NVMe SSDストレージデバイスは、冗長性を確保するのも難しい。「現在、ほとんどのRAIDコントローラーはNVMeをサポートしていない。そのため、ユーザーは2つの選択肢を検討しなければならない。1つはソフトウェアRAIDだが、これは、インストールされているOSでは利用できないかもしれない。もう1つは、ノード間の同期ミラーリングをサポートするシステムを見つけることだ。このミラーリングは、ドライブの障害がサーバ全体をダウンさせても、システムを継続稼働させる」(プルーエン氏)

展望

 NVMeには多くのメリットがあるため、NVMe SSDストレージは数年以内にSSD市場を支配しそうだ。

 「NVMeプロトコルのメリットの1つは、リモートメモリやネットワーキングアクセスのモダンな世界にうまく統合されることだ。ベンダーはこの統合により、従来のSSDと比べてはるかに幅広い付加価値を提供できる」と、Exceleroのチーフアーキテクトを務めるキリル・ショイケット氏は説明する。同社はNVMe over Fabricsアレイを手掛けるスタートアップだ。

 他のほとんどのシステムコンポーネントと同様に、NVMe SSDストレージでも、市場の主役はプレミアム製品からメインストリーム製品へと徐々に交代するだろう。「一部のベンダーは、パフォーマンスや品質をひたすら追求するだろうが、他のベンダーの製品は、最も安い価格帯に集中するだろう。トップエンドの実装にPCIe Gen3スロットのペアが装備され、ローエンドソリューションに、BGAをボードにマウントした設計が採用されても、驚くにはあたらない」とヒントン氏は予想する。

 異なるメディア層を組み合わせた従来のハイブリッドストレージアーキテクチャは、RAMでは不可能だった大容量キャッシュ層をSSDで提供することで、フラッシュストレージの最初の攻勢に耐えた。

 「NVMeデバイスが主流となる新しい市場では、ベンダーは、30年近く採用してきたアプローチを続けられないと思う。大きなアーキテクチャ変更が、データセンターを席巻するフラッシュ革命を完成させるだろう」とショイケット氏は見る。

 「NVMeデバイスは、向こう2年間に既存製品から市場を奪い、現在のフラッシュのように、エンタープライズストレージとして当たり前に使われるようになるだろう。このデバイスでは、実装の仕方によってメリットに違いが出てきそうだ」(コッブ氏)