メインメモリに利用される「DRAM」(Dynamic Random Access Memory)に匹敵するデータ読み書き速度を実現しつつ、ストレージに利用されている「NAND型フラッシュメモリ」と同様に不揮発性で永続的にデータを保持できるメモリ「ストレージクラスメモリ」。その一つに、データの保存に磁化(物体が磁気を帯びること)の状態を利用する「磁気抵抗メモリ」(MRAM)があり、幾つかの種類が存在する。
スピン注入磁化反転型MRAM(STT-MRAM)
MRAMの一種である「スピン注入磁化反転型MRAM」(STT-MRAM)は、消費電力を減らすことを目的に開発された。STT-MRAMは電子の持つ微弱な磁石の性質である「電子スピン」を生かし、2つの磁性体層の間に絶縁体層を挟み込んだ「磁気トンネル接合」(MTJ)構造の素子の磁気抵抗を、より効率的に変化させられるようにする。
電子スピンによって磁性体層の磁気を反転させることを「スピントランスファートルク法」(STT)と呼ぶ。STTをMTJで利用すると、電子スピンを利用しない通常のMRAMよりも消費電力を抑制できる利点がある。MRAMよりも小型化でき、容量密度を高められる利点もある。ただし高速な性能を求めると、STTを用いた場合でも消費電力が非常に大きくなり、DRAMの代替手段としてコスト的に成り立たなくなる懸念がある。
MRAMベンダーEverspin Technologiesは容量256MBのSTT-MRAMを提供している。同社はSTT-MRAMの技術を応用して、データ読み書きを高速化するストレージも開発した。このストレージは1GBの容量を備え、DRAMに匹敵する処理性能を実現できる。Everspin Technologiesが提供する256MBのSTT-MRAM《クリックで拡大》
カーボンナノチューブメモリ(NRAM)
「カーボンナノチューブメモリ」(NRAM:Nanotube RAM)は、メモリベンダーNanteroが独自に開発した、「カーボンナノチューブ」(CNT)を利用するストレージクラスメモリだ。CNTは髪の毛の5万分の1ほどの太さで、鋼の約50倍の強度があり、アルミニウムの半分の密度で、熱伝導性と電気伝導性が極めて高い。
NRAMは数多くのCNTによる層を2枚の電極層の間に配置する。電圧によってCNT同士を相互に接触させたり、分離させたりして抵抗値の高低を生み出す。CNT同士が相互に接触していないときは電極間の電流経路が形成されず、抵抗値が高くなり「0」の状態を表す。互いに接触しているときはファンデルワールス力(分子や原子同士が引き付け合う相互作用)によってCNT同士が接着して、電極層間の電流経路が形成されると抵抗値が低くなり「1」の状態になる。
Nanteroによると、同社のNRAMの処理性能はDRAMとほぼ同等でありながら、容量密度はDRAMよりも高い。DRAMと異なりスタンバイモードでは電力は消費されない。データ書き込み時の1bit当たりの消費電力はNAND型フラッシュメモリの約160分の1と極めて小さい。極端な低温や高温などの環境的な問題への抵抗力も高いと評されている。
NRAMは既存のCMOS(相補型金属酸化膜半導体)の生産設備を利用して製造できる。そのためメモリベンダーはNRAMのために新しい設備や工程を取り入れる必要がない。Nanteroは製造コストを低く抑えられる点もNRAMの利点だと主張している。3次元(3D)構造や、複数bitを1つの記憶素子に格納する方式にも応用可能だという。