ESG経営のシステム対応遅れが致命傷になるリスク

ESG(環境・社会・企業統治)に対する消費者や投資家の関心が世界レベルで高まっているのを受け、ESGを根幹に据えた経営があらゆる企業に求められつつある。一方、大半の日本企業はESG経営に出遅れ、人材育成も組織体制もシステム整備も十分でない。ESGに関する開示データの収集管理は手作業のExcel頼みが現状だ。

 ESGの情報開示に関する世界的な統一ルールができる見通しを背景に、全社レベルでミスなく迅速にデータを収集管理する必要があるとみて、欧米のERP(統合基幹業務システム)ベンダーは着々とESG対応機能を充実させている。こうした世界の流れに無頓着で対応を怠れば市場から受け入れてもらえず、大企業も中小企業も企業としての存続がいずれ危うくなる。

国際基準、まずは「気候変動リスク」から

 現在、世界的な統一ルールの下に企業のESGの取り組みを評価しようとする動きが進んでいる。現状では民間団体の基準が乱立し、企業間の比較が難しいという課題がある。

 ルール統一への流れを決定づけたのが2021年11月3日、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)での発表だ。国際会計基準(IFRS)の策定を担う非営利団体である英IFRS財団が、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)を設立し、2022年6月をめどに企業による気候変動リスクに関する情報開示の国際基準をまとめると発表した。

 国際基準の開示項目やその対象範囲、進捗を判断する指標といった具体的な詳細は今後ISSBの委員らが定める。内容によっては日本企業に大きな影響が及びそうだ。例えばエネルギー使用量を石炭や石油、原子力といった電源別に掘り下げて開示するよう求められると、石炭火力への依存が高い日本の企業には不利に働くと考えられる。この他、海上輸送に伴う温暖化ガス排出量を開示対象に含める場合、島国である日本は、陸続きの国が多い欧州などに比べて劣って見える恐れがある。

 新基準は世界標準として広く採用されることが見込まれ、企業は基準に沿って関連情報を収集・管理し、一定規模の企業はいずれ開示が義務化される可能性が高い。ISSBは気候リスク以外のESG領域にも新基準を拡大する見通し。幅広い開示内容に対応していくには、ESGでも財務会計と同じくERPを使ったヒト・モノ・カネ、そして情報の管理が必要となりそうだ。

開示情報は定量的で大量に

 IFRS財団の気候変動リスクに関する国際基準は、主要国で構成する金融安定理事会(FSB)が設置した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に沿った内容となる見通しだ。2022年4月の東京証券取引所の市場再編で、最上位となる「プライム市場」の対象企業には既にTCFDの提言に沿った開示が求められることになっている。

 TCFDは「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目に基づき気候リスク情報を開示するよう推奨するものである。分析に用いる個別項目の詳細までを強制的に開示させるルールではない。「企業側に開示の自由度がある」。東京都立大学大学院経営学研究科教授で日本CFO協会の松田千恵子主任研究委員はこう評価する。

 一方でIFRS財団は国際会計基準を策定する組織であることから「きっちりルールをつくるというアプローチで、(TCFDが推奨する開示よりも)定量的かつ大量の開示を迫る可能性もある」と松田氏はみる。IFRS財団がISSBを「国際会計基準審議会(IASB)」と並列する形で設置したことからも、新基準は国際会計基準と同様に「強制開示的な傾向が強まる」(松田氏)。どこまでの範囲の企業に新基準に沿った開示を求めるかは決まっていないが、IFRS財団による国際基準が広がれば、大手企業からそのサプライチェーンに連なる中小企業までデータ提供などの「追加対応」が求められるのは必至だ。